静的安全係数 fS

LMローラーが静止あるいは運動中に、振動・衝撃や起動停止による慣性力の発生などにより、思わぬ外力が作用することが考えられます。こうした作用荷重に対して静的安全係数を考慮する必要があります。

fS 静的安全係数
fC 接触係数 (下記表2参照)
C0 基本静定格荷重 (kN)
PC 計算荷重 (kN)
静的安全係数の基準値

表1に示す静的安全係数を使用条件における下限の基準値としてください。

表1  静的安全係数(fs)の基準値
使用機械 荷重条件 fsの下限
一般産業機械 振動・衝撃のない場合 1~1.3
振動・衝撃が作用する場合 2~3
工作機械 振動・衝撃のない場合 1~1.5
振動・衝撃が作用する場合 2.5~7

定格寿命の算出

THKでは、LMローラーは100km定格寿命で定義しており、定格寿命(L10)は基本動定格荷重(C)とLMローラーに負荷する荷重(PC)から次式により求められます。

L10 定格寿命 (km)
C 基本動定格荷重 (N)
PC 計算ラジアル荷重 (N)

定格寿命(L10)の比較を行う際には、基本動定格荷重が50km、100kmのどちらで定義しているかを考慮する必要があり、必要に応じてISO 14728-1に基き基本動定格荷重の換算を行います。

ISOで規定されている基本動定格荷重の換算式:

C50 定格寿命が50kmとなる基本動定格荷重
C100 定格寿命が100kmとなる基本動定格荷重

使用条件を考慮した定格寿命の算出

実際の使用では稼動中に振動や衝撃を伴う場合が多いため、LMローラーへの作用荷重の変動が考えられ正確に把握することは容易ではありません。また、転動面の硬さや使用環境温度、LMローラーを密着に近い状態で使用する場合も寿命に大きく影響します。
これらの条件を考慮すると、次式(2)により使用条件を考慮した定格寿命(L10m)を算出することができます。

使用条件を考慮した係数α
α 使用条件を考慮した係数
fH 硬さ係数 (下記図1参照)
fT 温度係数 (下記図2参照)
fC 接触係数 (下記表2参照)
fW 荷重係数 (下記表3参照)
使用条件を考慮した定格寿命 L10m
L10m 使用条件を考慮した定格寿命 (km)
C 基本動定格荷重 (N)
P 計算ラジアル荷重 (N)

寿命時間の算出

定格寿命(L10)が求められると、ストローク長さと毎分往復回数が一定の場合、寿命時間は次式により求められます。

Lh 寿命時間 (h)
S ストローク長さ (mm)
n1 毎分往復回数 (min-1
fH: 硬さ係数

直動システムの負荷能力を十分発揮させるためには、転動面の硬さを58~64HRCとする必要があります。この硬さより低い場合、基本動定格荷重および基本静定格荷重が低下しますので、それぞれに硬さ係数(fH)を乗じます。

fT: 温度係数

LMローラーを使用する使用環境が100℃をこえるような高温の場合は、高温による悪影響を考慮して図2の温度係数を乗じます。

注) LMローラーの通常使用温度は80℃以下です。80℃以上になる場合はTHKにお問い合わせください。

fC: 接触係数

複数のLMローラーを密着に近い状態で使用する場合では、モーメント荷重や取付面精度が影響し均一な荷重分布を得ることが難しいため、表2の接触係数を基本定格荷重(C)、(C0)に乗じてください。

注) 大型の装置に不均一な荷重分布が予想される場合は表2の接触係数を考慮してください。

表2 接触係数(fC
密着時のLMローラー数 接触係数(fC
2 0.81
3 0.72
4 0.66
5 0.61
通常使用 1
fW: 荷重係数

一般的に往復運動をする機械は運転中に振動や衝撃を伴うものが多く、特に高速運転時に発生する振動や、常時繰返される起動停止時の衝撃などのすべてを正確に求めることは困難です。従って、実際にLMローラーに作用する荷重が得られない場合や、速度・振動の影響が大きい場合は、経験的に得られた表3の荷重係数を基本動定格荷重(C)に除してください。

表3  荷重係数(fW
振動・衝撃 速度(V) fW
微速の場合
V≦0.25m/s
1~1.2
低速の場合
0.25<V≦1m/s
1.2~1.5
中速の場合
1<V≦2m/s
1.5~2
高速の場合
V>2m/s
2~3.5

選定のポイント